各地で発生する地震、これまで大きな揺れを感じなかった地域でも起こるようになり、日本国民の誰しもが他人事ではない問題となりつつあります。
いざという時に考えておかなければならないのが、近くの公民館や学校等における避難所での生活。自宅で避難グッズを用意して持ち込んだとしても、避難所の冷たい床の上でごろ寝というのでは体がもちません。もちろんシートやマットなどを準備している自治体もありますが数には限りがありますし、避難が長期間に渡ればエコノミークラス症候群の心配も出てきます。
そこで思い出して頂きたいのが「ダンボール」。何かと役に立つダンボールですが、実は災害時に大活躍するのです。その代表格はダンボールによる簡易ベッド。各自治体で準備が進められています。今回は簡易ベッドだけでなく、災害時におけるダンボールの様々な活用法をご紹介していきます。
1.ダンボールの簡易ベッドが全国に普及
1-1.ダンボールベッドによる3つの利点
1-2.ベッドの作り方
1-3.ベッドが全国へ普及したワケ
1-4.各地で締結される支援協定
2.プライバシーを守るダンボールの間仕切り
2-1.避難においては心の安定が必要
2-2.保温効果にも期待
2-3.児童による避難所生活体験
3.進化するダンボールシェルター
3-1.テントのような家型シェルター
3-2.トイレ・更衣室として活用
4.避難グッズの保管や移送
4-1.各地から届く支援物資
4-2.準備がしやすい
4-3.片付けも便利
5.子どもが喜ぶダンボール工作
まとめ
日本では欧米とは異なり、畳の上で寝る文化があります。とはいえ、最近ではベッドを導入する家庭も増えていますし、床の上では布団を敷いたとしても寝付けない方が多いのではないでしょうか。災害時に避難所となるのは近くの公民館や学校の体育館であり、一般的には冷たい床(フローリング)です。この場所に一週間以上泊まると考えたら、かなり厳しい生活になることが予測されます。
阪神淡路大震災や新潟県中越地震、東日本大震災そして熊本地震と大きな震災が続いており、テレビやインターネットのニュースで避難所の様子を目にすることがあります。シートやマット、布団を敷いているとはいえ床の上で寝ては体が痛くなることでしょう。そこで考案されたのがダンボールによる簡易ベッド。ダンボールは耐久性が高く、複数個を組み合わせれば大人の体重であっても、しっかりと体を支えてくれるのです。
ダンボールベッドによって床から少しでも離れることによって、床に溜まったホコリが口や鼻へ入るのをある程度防ぐことができます。ホコリを吸って一晩中セキをしていたのでは、本人も辛いですし周囲に迷惑をかけてしまうのではと心が痛みます。
雑魚寝が続くと、起き上がるのが億劫になってしまいます。避難によって心身ともに疲弊している状態ですから、なおのことです。年齢によっては歩行障害へと発展してしまう可能性もありますので、ベッドを導入することにより起き上がりやすくします。
そして最も注目すべきポイントは、いわゆるエコノミークラス症候群の予防につながるということ。床に寝て体が圧迫されることにより、下肢に血栓ができ肺血栓症へとつながります。脳梗塞や心筋梗塞のリスクも懸念しなければなりません。健康な状態を保つためにも、ダンボールによる簡易ベッドが有用なのです。もちろん、就寝時におけるストレスの軽減も期待できます。
何と言っても、ガムテープ以外の工具が不要というのは大きな魅力。組み立てた24個のダンボール箱を並べて、パーテーションになるダンボールのフタを被せて完成。箱の中にダンボールの板を斜めに差し込むことにより強度が上がります。手慣れた人であれば、1つのベッドを完成させるのに15分程という手軽さです。
ダンボールの中には空間がありますので空気の層ができるため、周囲を人が歩いたとしてもその振動を多少は軽減できますし、収納ボックスとしても役立ちます。ダンボールのサイズによりますが、縦が約2メートルで横が約1メートル、そして高さが35センチメートルほどあります。
ダンボールベッドの開発は画期的であり一社が独占できるアイデアなのですが、災害時の被災者救援が目的ということで、Jパックス株式会社が設計図をダンボールの業界団体へ無償公表してくれました。とても賞賛されるべき行動です。
つまり全国にあるダンボールの製造会社が自治体と協力をして、災害時のダンボール提供システムを構築できるようになったのです。災害時は輸送システムもマヒしますから、地元の会社がダンボール供給の役割を果たすことが重要です。
実際に2016年8月には、神奈川県横浜市が東日本段ボール工業組合と「災害時における段ボール製品の調達に関する協定」を締結しました。各自治体のホームページを閲覧すると、多くの自治体が地元のダンボールを扱う会社と協定を結んでいることが分かります。
自宅の個室が一番落ち着く…という方が多いことでしょう。それはプライバシーが完全に守られているから。常に他人から見られている状態では落ち着きません。そこでダンボールを間仕切りとして活用します。
最初は余震が続き、他人同士であっても近くで支え合うことで精神的な安定につながるのですが、避難の期間が長期になればなるほど間仕切りの必要性が高まります。常に周囲から見られている状態では、ゆっくりと安らぐこともできません。そこでダンボールによって間仕切りを作ります。
金属等のパーテーションとは異なり、もし倒れてきたとしても大怪我につながる心配はありませんし、わずかな材料で多くの間仕切りを作成することができます。
避難が夏であれば着衣を脱ぐなど調整をして暑さ対策をしますが、もし厳冬であれば寒さを防がなければなりません。分厚いコートなどを自宅から持ち出すのは大変ですし、着衣の枚数も限られてしまいます。そこでダンボールで避難スペースを囲うことで、多少ではありますが保温効果が期待できます。人間が発する熱をキープしてくれるのです。
避難訓練においてダンボールの簡易ベッドを人数分作成するのは無理ですが、間仕切り程度であれば簡単に設置が可能です。2017年10月には、岐阜県岐阜市のとある小学校においてダンボールの間仕切り等を作り1泊2日の避難所生活体験を行いました。子どもたちは生活している環境が大きく変化すると、体力的にも精神的にも負担が大きいですから、事前に一度でも体験しておくといざという時に役立ちます。
避難が長期に渡り、なかなかプレハブ等の避難施設が完成しない状況であればダンボールシェルターが活躍します。いわゆる家型のダンボールハウスであり、スピーディに完成するという利点があります。
工学院大学の建築学部建築学科・鈴木敏彦教授が開発したダンボールシェルターは、用途に応じて3つのタイプがあります。
一つは公民館や体育館等で利用される一時的な寝室であり、暖かくてプライベートな空間が構築できます。二つ目は寝るだけでなく、被災者の個室として利用できるタイプのダンボールシェルターです。
避難所においてはトイレも大きな問題となります。最近では簡易型のトイレが開発されていますが、これを覆うスペースを設けなければなりません。三つ目は縦型のダンボールシェルターとなっており、更衣室としても利用が可能です。全自治体に配備していくことはまだまだ難しいですが、こういったダンボールシェルターが普及していくことが望まれます。
ここで基本に立ち戻り、ダンボール箱としての利用についても見ていきましょう。
震災等の災害が発生すると、日本だけでなく世界各国から支援物資が届きます。その際に利用されるのがダンボール箱。避難所は複数設けられていますから、届いた物資を避難人数に応じて小分けしていく必要があります。避難している家族単位で物資を支給するのにおいても、小さなダンボール箱が有用です。
金属やプラスチックの箱は頑丈ですが、ストックしておく場所が必要となりますし、大きなスペースを用意しなくてはなりません。その点、小さく畳むことができるダンボールは準備しやすく、簡単に組み立てることができます。ダンボールの簡易ベッドに使用する際は衛生面にも気を使わなければなりませんので、使い捨てが可能な新しいダンボールが求められます。
避難所を退去する際には、簡易ベッド等で利用したダンボールに必要な物資を詰めて引っ越すことができます。畳めば一枚の厚紙になりますし、紐でくくりやすいです。震災時は各地で大量の瓦礫が発生していると考えられますので、できるだけ避難所から出すゴミは減らしていく必要があるのです。
このダンボールコラムにて、2017年10月に「ダンボール工作に欠かせない!目からウロコの便利道具」をご紹介しましたが、ダンボールは遊び道具として大いに役立ちます。
避難所では娯楽が不足してしまうことから、子どもから大人まで年代を問わず楽しめるものが必要です。電力供給が限られるので、テレビやゲームといったデバイスも制限されます。そこで登場するのがダンボール工作。最小限の道具で楽しめる遊びです。
避難所が学校であれば、絵の具・クレヨン・マーカーやカッター・ハサミなどの道具が図工室に用意されています。子どもたちがイキイキと活動できるダンボール工作は、避難所において有用なツールです。協力をして一つのものを作り上げることにより団結力が生まれますし、復興への光もになります。子どもたちによる作品を見て、おばあちゃん・おじいちゃんが目を細めて喜ぶといったシーンは、人々の心を動かすことでしょう。
椅子やテーブルなど、避難所の生活において必要な道具を作っていくのも良いですね。前述のダンボール簡易ベッドも、子どもたちが手伝うことが可能なダンボール工作の一つです。
このように、ダンボールは地震等の災害時において大活躍します。家庭での避難訓練において、ダンボール製の簡易ベッドや間仕切りなどを、親子で作成してみるのはいかがでしょうか。