今夏、関西および中国・四国地方が厳しい豪雨災害に見舞われました。川の増水等で自宅で生活することが危険となり、近くの学校や公民館に避難した方も数多くいらっしゃいます。その様子がテレビや新聞等で報道されていて、その際に度々取り上げられていたのが「ダンボールベッド」です。
今回の災害では、三千台近くのダンボールベッドが使用された自治体もあります。避難所で大活躍をするダンボールベッド、詳しくご紹介しましょう。
1.ダンボールベッド7つのメリット
1-1.「エコノミー症候群」を起こさせない
1-2.「ホコリ」の吸引防止に役立つ
1-3.「いびき・足音」等の騒音を防ぐ
1-4.冬は空気の層により比較的「暖か」
1-5.腰掛けることで「椅子」に変身
1-6.ダンボールに私物を「収納」し安心
1-7.仮設住宅・自宅への「移動」に便利
2.ダンボールベッド導入における利点
2-1.通常ベッドより「コスト」が安い
2-2.緊急時に「大量生産」が可能
2-3.「在庫」を抱える必要がない
2-4.「処分」がしやすいダンボール
3.ダンボールベッドは作るのが簡単
3-1.工具やガムテープが不要
3-2.数分で制作・解体が可能
3-3.自宅でダンボールベッドを利用する人も
4.ダンボールベッドに対する現場の声
4-1.「思ったよりも寝心地が良い」
4-2.「自宅もベッドだから安心して眠れる」
4-3.「腰が悪いのでベッドだと助かる」
ダンボールベッドとは、荷物の運搬等で使用される一般的なダンボール箱を組み合わせたベッドのことです。「体が痛くなりそう」とか「人が乗ったら潰れそう」と思われるかもしれませんが、波状の中芯を2枚のボール紙で挟んだ三層構造のダンボールはとても頑丈です。
ダンボールベッドによっては、20人が乗っても壊れないものがあります。それでは、ダンボールベッドの具体的なメリットを7つ挙げていきましょう。
避難時において、最も重要であることは命を守ること。長時間同じ姿勢でいたり、床に直接寝転がっていたりすると血行が悪くなり、血栓が体内にできてしまう可能性があります。血栓が肺へ到達すれば、血圧低下や呼吸困難など命にかかわる重篤な症状を起こしかねません。
これらの症状は、飛行機で窮屈であるエコノミークラスの座席で起こりがちと言われていることから、エコノミー症候群と名付けられました(体を動かさないこと、水分補給を怠ることが主な要因とも言われています)。これは避難所でも似たような環境となるため、ダンボールベッドを導入することで、寝返りがしやすくなったり腰を掛けたりといった動きが生じ、エコノミー症候群を防げるかもしれないのです。
避難所では靴を脱いでいるとはいえ、多くの人たちが集まっていることから、床にはたくさんのホコリが積もってしまいます。もし床へ直接寝ていたとすれば、周囲の人たちが少しでも動くことにより、たくさんのホコリが舞い上がり、口や鼻へと入り込んでしまいます。
ホコリの吸引を防止するには、一般的に床から30センチ以上離れる必要があります。そこで登場するのがダンボールベッドでして、ダンボールの高さの分だけ床から口や鼻を遠ざけることができるのです。病院ではベッドが導入され床へ直接寝るというのはまずないことからも、床から身体を離す必要性がご理解いただけると思います(病院では、治療や診察のためという理由もあります)。
避難した後は、できるだけ体を休めておく必要があります。翌日から復興に向けて、様々な対応が求められるからです。しかし、自宅とは異なり周囲からいびきが聞こえてきたり、足音が響いてきたりと静寂からはかけ離れた環境となり、総じて寝不足になりがちです。
いびきをかく自覚がある人は、周囲の人の迷惑にならないかと心配で寝られないかもしれません。ところが床へ直接寝るよりも、ベッドの方がいびきをかきにくいという人も多いと聞きます。また、ダンボールがクッションとなって、足音が直接頭に響かずに済むというのも魅力的です。
冬は床から冷気が立ち昇ってきます。布団を敷いているとはいえ、寝ている間に身体が冷えきってしまうかもしれません。しかし、ダンボールベッドを導入すればダンボール内に空気の層が出来るため、ある程度冷気を遮断できます。毛布にしっかりとくるまっていれば、背中からジワジワと冷えていく不快感がないのです。
前述のように、寝転がったままでいるとエコノミー症候群の危険性が高まります。そこで昼はダンボールベッドへ腰掛けることにより、多少の動きが生じます。ダンボールで耐久性が高いことから、人が複数名座っても問題ありません。
また、床に雑魚寝をしている訳ではないので、夜暗くても踏まれてしまう心配がなく、落ち着いて生活することができます。
避難所では助け合いが大切とはいえ、やはり貴重品はしっかりと仕舞い込んでおきたいもの。誰からも見える所に置いたままでは、心配で寝ることもできません。その点、ダンボールベッドはダンボール内に収納スペースが生まれます。寝ている間に取り出すことは難しく、まるで鍵をかけたかのように私物を安心して収納できます。
最近では災害発生後、政府および自治体が近隣のホテル等へ迅速に手配して、仮設住宅が完成するまでの間そこで避難者が生活できるようにする試みが行われています。その際はダンボールベッドを解体し、その箱の中に私物を入れ移動をすれば良いのです。災害の危険が去り自宅へ戻れる時にも、このダンボールはたいへん役立ちます。
ここでは自治体側から見た、ダンボールベッド導入における利点について説明をします。実際に三百近い自治体がダンボール会社と防災協定を結んでいますし、西日本の豪雨災害でダンボールベッドが数多く導入されたことからも、その有用性が立証されています。
家具屋で実物を見たり、インターネットショッピングでベッドを検索したりすると、ベッドはかなり高額であることが分かります。もちろん、ダンボールベッドと寝心地の良さでは大きな差があるものの、期間が限られている避難所では、自治体における予算の面からもダンボールベッドのコストの良さは秀逸です。
ダンボールベッドの材料は、基本的にダンボールのみであることから、短時間で大量生産をすることが可能です。材料を各地から集める必要がなく、一つの工場でダンボールベッドを完成できます。震災や水害時に交通網がマヒしてしまう可能性が高いことから、ワンストップで製造できることが大切なのです。
畳んだ状態で収納ができるダンボールですから、多少のストックであれば倉庫を大きく占領してしまうことはありません。しかし避難者全員分となれば、やはり常に確保しておくというのは難しいものです。
現在、ダンボールに関係する会社は全国に三千あると言われています。もし震災や水害で、地元の会社でダンボールベッドの生産ができなくなっても、都市周辺の会社からおおむね三日以内に取り寄せることができます(避難所へ運搬できるかは災害の状況によります)。
震災や水害が発生すると、ゴミの問題が浮上します。元の生活をいち早く取り戻すには、壊れた住宅の木材や汚泥など優先的に処理をしていかなければなりません。その上、避難所でたくさんのゴミが生じてしまったのでは困ります。
その点、ダンボールはリサイクル可能な素材であり処分がしやすいというメリットがあります。一度使用したダンボールベッドも、まわりまわって新たなダンボールベッドへと生まれ変わるのです。
避難所においては、誰でも簡単にダンボールベッドを作れることが大切です。人手を確保することが難しい状況で、スピーディにダンボールベッドを完成させなくてはなりません。
工具は数に限りがありますし、ガムテープを十分に確保できないケースも考えられます。しかしダンボールベッドなら、組み立てるだけですので工具・ガムテープが不要です。ダンボールの底を噛み合わせたり、ジャバラを広げていくだけというダンボールベッドもあります。
学校の体育館など、たくさんの避難者がいる場合は一つのダンボールベッドを作るのに長時間かける訳にはいきません。大人であれば十数分で完成できますし、手先が器用な子どもも手伝いができます。また、解体も手早くできるため、撤収時も大きな負担になりません。
このように簡単に扱えるダンボールベッドは、避難所ではなく自宅で使用する人もいるそうです。実際に、大手ショッピングサイトで一万円弱で販売されており、それを購入して一年以上自宅で使用し続ける人もいるのだとか。転勤が多いと、その度にベッドを購入する訳にはいきませんし、引っ越しの運送費もかなりの負担になるため、解体がしやすいダンボールベッドを導入するというケースがあります。
今回の西日本豪雨災害において、広島市では150床そして倉敷市に2,700床、さらに愛媛県では1,000床のダンボールベッドが導入されました。その現場において、様々な声が寄せられています。非常時は不便が当たり前と、ダンボールベッドが使用されなかったケースもあるそうですが、エコノミー症候群を防ぎ衛生環境を向上させるには、利用を勧めていくのが良さそうです。
ダンボールをイメージした時に、やはり頭をよぎるのは寝心地や丈夫さの問題。しかし実際に寝てみると、毛布や厚手のシーツを敷いておけば、それほど寝心地が悪くありません。いきなり崩れてしまうという心配もなく、ダンボールベッドの素晴らしさを実感した人も少なくないでしょう。
睡眠環境が変わると眠つけないという方にとって、自宅と同じベッド式であるということはとても大切です。旅行でも畳の上に布団を敷いたのでは何だか眠れないという人は、避難所にベッドがあるだけで嬉しいものです。
寝心地だけでなく、実際に身体に痛みを発症したのでは避難生活が苦しくなります。特に腰を痛めている人にとって、寝返りがしにくい床での就寝は辛いものがあります。起床時も、ダンボールベッドに一度腰掛けてからゆっくり立ち上がることにより、ギックリ腰を防ぐこともできます。
避難所におけるダンボールベッドの有用性、ご理解いただけたかと思います。衛生環境を向上させ、少しでも身体に負担を減らす形で避難生活ができるダンボールベッド、今後も各地に普及していくことが望まれます。
そのためには、各自治体がダンボール会社と防災協定(災害発生時にダンボール会社が自治体へダンボールベッドを納品すること)を結び、迅速に対応していくことが求められるのです。