ペットボトルにビン・缶そして牛乳パックなど、様々な容器包装においてリサイクルが推奨されている現代。それらを廃棄する際も、資源ごみとして細かく仕分けが義務付けられている自治体も多いことでしょう。その中でダンボールは95%以上というリサイクル率の高さから、「リサイクルの優等生」と呼ばれることがあります。
今回はダンボールの優等生ぶりを、じっくりと観察してみましょう。使用済みダンボールの回収から、新たなダンボール原紙に生まれ変わるまでの工程を中心として、多角的に見届けていきます。
1.ダンボールリサイクル率の変化
1-1.高回収率をキープ
1-2.他の資源ごみと比較
1-3.法整備により循環促進
2.回収
2-1.リサイクル先の違い
2-2.注意すべきこと
3.準備
3-1.古紙回収業者へ
3-2.ブロックにする
4.再生
4-1.パルパーで溶かす
4-2.ちょっと実験!
4-3.スクリーン等で分別
5.出荷
5-1.抄紙機でシート作成
5-2.ダンボール工場へ
6.環境面でも優等生
7.まとめ
まずは、ダンボールにおける回収率の移り変わりを確認してみましょう。段ボールリサイクル協議会が調査したところ、2004年では回収率が84.0%に留まっていたものの2007年に90%の大台へ乗り、多少上下をしながら2017年には96.1%に達しました。回収されたダンボールの大半がリサイクルされることから、回収率の高さがそのままリサイクル率の高さを表しているのです。
では、他の資源ごみのリサイクル率はどのようになっているのでしょうか。まずペットボトルですが、PETボトルリサイクル推進協議会調べで2017年に84.8%となっています。続いて清涼飲料やお酒が入っているアルミ缶ですが、こちらはアルミ缶リサイクル協会調べによると2017年が92.5%です。いずれも高い数値を誇っており、各自治体や企業努力が着実に成果へ結びついています。ただし、アルミ缶に関してはダンボールと異なり、全てが缶から缶へ生まれ変わる訳ではありません。再びアルミ缶になるのは67.3%です。
ダンボールはそのままダンボールへ生まれ変わりますから、ここ数年は95%以上の回収率を維持することで、木材など新たな材料をあまり必要としていないことになります。つまり、これらの数値が意味するのは、他の資源ごみと比べてもダンボールが効率よくリサイクルされ、「リサイクルの優等生」と呼ばれる理由の一つであるということです。
ペットボトルやビン・缶(スチール・アルミ)は1997年4月に「容器包装リサイクル法」が制定され、消費者は仕分けし自治体が分別収集、そして事業者が再商品化するといった役割分担が求められました。これに続いて2000年4月にはプラスチック容器などと共にダンボール製容器包装も対象となったのです。その後も状況に応じて法改正がなされています。
ダンボールが指定表示製品からは除外されましたが、2001年4月には「資源有効利用促進法」が完全施行され、いわゆる3R(リサイクル・リデュース・リユース)が義務づけされました。ダンボール業界もオリジナルのリサイクルマークを作成するなど努力を続けていますが、すでに高い回収率を誇ることから、他の業界の模範となるリサイクルシステムを構築済みと言えるのではないでしょうか。
リサイクル済みの商品をよく購入している方は、トイレットペーパーのパッケージに「1ロールに牛乳パック〇本分を使用しています」といった文面が書かれているのを見かけますよね。実は紙の種類によってリサイクル先が異なるのです。繊維の質などが影響しますので、新聞紙からダンボールへ作り変えることはできません。つまり新聞紙からは新聞紙もしくはコピー紙などに、雑誌は書籍や菓子箱などに、そしてダンボールはダンボールにといった具合です。ですから基本的に回収の段階で、ダンボールは新聞紙などと分別されているのです。
リサイクル段階で遠心分離やろ過することで異物を除去することは可能ですが、機械に負担がかかってしまいますし、リサイクル効率に影響を及ぼすかもしれません。そこで、分別の段階で異物をしっかりと取り除いておく必要があります。
古紙再生促進センターが禁忌品として挙げているものを、いくつかご紹介しましょう。まず「食品残滓のついた紙」、つまりピザなどの油分を吸ったようなものはリサイクルに適しません。可燃ごみとして廃棄しましょう。柔軟剤や香水などニオイが付いてしまった紙もいけません。ダンボールで時々見かけるのが、輸入青果物や水産加工品等で使わるロウ(ワックス)付きのもの。これも適しません。
靴やカバンなどに入っている詰め物や、果物を衝撃から守る色の濃いクッション材などもバツ。ダンボールから商品を取り出して、詰め物やクッションをそのままダンボールと一緒に捨ててしまったという経験はありませんか。これからはダンボールが「リサイクルの優等生」であり続けるためにも、しっかりと分類をしたいものですね。
それでは、ダンボールをリサイクルの旅へと送り出しましょう。家庭から出されるダンボールは自治体が回収する場合も、委託された古紙回収業者が各地域を周るというケースが多いです。企業が事業ごみとしてダンボールを廃棄する場合は、直接契約をして持ち込んだり回収に来てもらったりします。例外として、引っ越しの際に使用したダンボールは引っ越し業者が引き取るというケースもありますね。
ダンボールは濡れてしまうと柔らかくなり、まとめていた紐が緩むこともありますので、できれば天候の良い日に廃棄した方が良さそうです。このようにして古紙回収業者へと多くのダンボールが集まってきます。
古紙回収業者の事業内容によって、リサイクルのどの段階まで手掛けるかは異なりますが、まずは回収したダンボールをブロック状にまとめます。ベルトコンベアーに乗せ、大きな不要物を除去した上でダンボールを圧縮するのです。この段階でリサイクル業者へ受け渡すという古紙回収業者もあります。
いよいよダンボールが新しいダンボールへ生まれ変わる瞬間を迎えます。ブロック状になったダンボールはパルパーと呼ばれる機械に投入されます。これは大量の水で攪拌し、ダンボールを溶かしていきます。つまり結びついた繊維と繊維をほぐしていくのです。リサイクル後に白さが求められるコピー用紙等の場合はこの段階で脱墨剤が投入されることもあり、インクと紙の繊維を引きはがします。
パルパーで使われる水は使用後も沈殿ろ過を行うことで、再利用可能とのこと。あくまでダンボールを溶かすためですから、水も再利用ができるというのは素晴らしいですね。
ここで少し休憩をして簡単なダンボール実験をしてみませんか?自宅にダンボールがストックされているかと思いますので、その切れ端を実際に水に溶かしてみましょう。想像以上に一瞬で柔らかくなり、繊維がほぐれていくのを観察できます。防水加工がなされているダンボールもありますので、その際は少し時間がかかるかもしれません。いずれにせよ、ダンボールをパルパーで溶かすということを実感することが可能です。
ただし、ダンボールは大切な資源ごみ。大量に水へ溶かすようなことは止めてくださいね。あくまで実験ですので、小さな切れ端を使ってみましょう。また溶かした水はそのまま排水溝へ流さず(下手をすると詰まってしまいます)、ダンボールの繊維をギュッと固めて可燃ごみとして廃棄してください。
さて、話を戻しましてダンボールのリサイクル旅を見届けます。次の段階では異物や不純物をダンボールから取り除きます。遠心分離の原理を用いて紛れ込んでしまった小さな金属やプラスチックを選り分けたり、スクリーンと呼ばれる網目状のスリットを通過させて異物を除去するのです。
溶けてしまったダンボール、これを再びダンボールの原紙によみがえらせます。その際使用するのが抄紙機(しょうしき)。いわゆる紙を濾す機械であり、広げたワイヤーの上に紙の層を作っていきます。この段階ではまだ水分をたっぷりと含んでいますので、圧力をかけて水分を取り除きます。
次に蒸気で表面を乾燥させ、ゆがみを無くしていくのですが、ここまでくると元のダンボールの見た目が復活します。これを巻き取ることでロール状のダンボール原紙の完成です。
商品を梱包するダンボールの形状は様々。そのため、ロール状のダンボール原紙を各ダンボール製造工場へ集荷し、顧客のニーズに合わせたものを生産するのです。回収からリサイクルの準備、そして再生の工程を経てようやく完成したダンボール。これを何度も繰り返すことによってダンボールが「リサイクルの優等生」としての役割を果たしています。
皆さんは「カーボンニュートラル」という言葉をご存じでしょうか。これは大気中の二酸化炭素を増やさないというもので、元々は木材であったダンボールは木として成長していた際に、二酸化炭素を光合成のため吸収しています。もし燃やしたとしても既に吸収した二酸化炭素が大気へ戻るだけであるため、プラスマイナスゼロという考え方です。
また、ダンボールは基本的に糊も含め天然素材なので、放置されたとしても長時間かけて土へと還っていきます。このように、リサイクルだけでなく環境面においても優等生であると言えるでしょう。
さらに環境負荷を減らすというリデュースの観点から、1平方メートル当たりで使用されるダンボール原紙の量も全体的に減少傾向にあります。軽量化が図れるとともに、ダンボールの種類によっては丈夫さも堅持しており機能的には問題ありません。
いかがでしたでしょうか。ダンボールの優等生ぶりを皆さんにご覧いただけたかと思います。何度も何度も繰り返し復活を遂げるダンボール、しっかりと分別して出来るだけ綺麗な状態でリサイクルへ送り出してあげたくなりますね。皆さんの手元にあるダンボール、もしかすると数年前に使ったダンボールが元になっているかもしれませんよ。